Vol.31 大型台風襲来す

2010.08.10 Tuesday

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    Vol.31 大型台風襲来す



    「大型で強い勢力を持った台風18号は、鹿児島の南150キロの海上にあり、
    毎時5キロの速さで北上中・・・・・」
    テレビの台風情報は、もう聞き飽きた同じセリフを何回も繰り返している。

    画面には荒れ狂う海と吹きまくる風の映像が、
    これでもかという程に映し出され、
    進路予想図上の台風はまっすぐにこちらを向いている。
    この分では明日の夜には間違いなく有明海に接近し、
    私たちの町を暴風雨の渦に巻き込んでしまうに違いない。

    天に向いて伸び揃っている稲穂はきっとドミノ倒しみたいになってしまうだろうし、
    実り始めた栗も梨も皆落ちてしまうだろう。
    お百姓さんの嘆きが目に見えるようだ。

    そしてお店は・・・・・・。私たちのスーパーはどうなるのだろうか。
    台風がこんなに怖いものだという事を、私はスーパーで働くようになって初めて知った。
    何よりも困るのが停電である。
    店内まっ暗で商売など出来はしないから、即、閉店せねばならない。
    一日の売り上げは全く期待できない上に、
    仕入れた当日売りの商品は駄目になってしまう。

    オープン冷凍ケースのアイスクリームや冷凍食品、
    鮮魚や精肉も一時間と保たずに溶けたり色が変わったりして
    売り物にならなくなってしまうだろう。
    そして、惣菜や鮮魚精肉の冷凍庫の中に山積みされている食材は、
    ドアを開けずにいれば七時間位はなんとか大丈夫だろうが、
    停電が長引けば溶解し始め、やがて使い物にならなくなってしまう。
    損害はしめてどの位になるものやら、
    恐ろしくて試算どころか想像する気にもならない。

    スーパーのおばさんになる前は、台風がやって来ると涼しくていいなあなどと、
    口には出さないが心の中で喜んでいた。
    きっと、そのバチが当たったんだと猛烈に反省した。
    それにしても、今年は何という台風の当たり年だろう。

    真冬の二月初めに第一号の台風が発生し、
    九月になったばかりなのにもう十八号である。
    つい先週も十六号の接近で、その時も停電に備えて水を汲み置くやら
    立看板を寝かして回るやら大騒ぎをした。
    毎週台風が来るなんて、全く冗談ではない。
         ◇  ◇  ◇
     店長がカートにどっさり古新聞を積んで、冷凍食品の売り場へやって来た。
    アイスクリームや冷食の上に、丁寧に新聞紙を重ねて置いていく。

    「店長。何をしてるんですか」
    「新聞紙は保冷効果が高いんだ。こうしておくと空気に触れないから、
    もし停電しても溶けるのが遅い」
    「ほー。そういえばホームレスさんが冬の夜身体に新聞紙を巻きつけて
    寒さを防ぐ話を聞いたことがあります」
    「そうだろ。私も若い時、冬の朝市場へ行くのにそうしたことがある」
     おやおや店長もホームレスもアイスクリームも、する事は同じという訳か。

    しかし、アイスや冷食を買いに来たお客さんは
    いちいち新聞紙をめくってみなければ商品が見えない訳で、
    さぞかし面倒なことだろう。

     こんな時、小さな店でも店長というのはしんどいものだ。
    店を開けるか開けないか、開けるとしたら何時にするか、
    従業員にはどの位動員をかけるか、停電の備えはどこまでするか、
    生鮮食品はどの程度並べるか・・・・・・何もかも自分が決めなくてはならない。

    冷静さをよそおっていろいろと指示を出しているが、
    頭の中では(これでいいんだろうか)という不安や心配が渦を巻いているのがわかる。
    本人は平然としているつもりだろうが顔がひきつって、
    目線がオロオロと店内をさ迷っている。
          ◇  ◇  ◇
    十時。
     風が猛烈に強くなった。駐車場の真ん中に立つ、
    この店のシンボルである樫の木が、右に左に大きく揺れ動き、
    駐車場には木の枝や葉っぱや、
    何だかわからないいろんな物がぴゅんぴゅん飛んでいる。

    「何時になるかわからんが、昼前にはピークを過ぎるはずだから、それから開店しよう」
    という事だったのに、魂消ることにお客さんがやってきた。
    「まあ、この嵐の中をようこそ」
    「なーんも備えがなくてね。少し食べ物を仕入れとかんと心配でね」

     何日も前から大型台風大型台風と言われていても、人間、
    その時にならないとなかなか行動しないものであるらしい。
    吹きまくる風の向こうから、次から次ぎへとお客さんがやって来る。
    強い風の力で自動ドアが開き、風向きが変わるまで閉まらない。
    とうとうスイッチを切って手動ドアになってしまった。

     十一時
     電気が消えた。ついに停電だ。恐怖と焦燥の時間の始まりである。
     お弁当やサンドイッチ、おにぎり、刺身、
    今日しか売れない商品は従業員に押し売りしよう。
    「従業員のみなさーん。お弁当、おにぎり、サンドイッチ、ぜーんぶ一割引だよー。
    さあ買った、かった」
    「なに、一割引? けちー。
    この非常時に。せめて三割引にせんかい」
    「・・・・・・」
    「刺身、さしみーィ。全品三割引だよーん」
    「それみろ。鮮魚は三割引ぜ。弁当も三割引にせんね」
    「えーい。お弁当も三割引―ィ」

     従業員を相手の商売はむずかしいものだ。
    皆喜んで三割引きのお刺身やお弁当を抱えて帰って行った。
          ◇  ◇  ◇
    「早く電灯が点きますように」と、神に祈った甲斐があって、2時30分復旧。
    パッとともった電気の光の、美しくまばゆかった事。
    ほとんどの従業員は帰ってしまって人数も少なく、
    お刺身も弁当も売るものはあまりなかったが、早速また開店した。

    その日の売り上げは平常日の半分以下しかなかったが、
    停電のために閉店した時間は3時間半、
    お客さんにかけた迷惑も最小限度ですんだというものだ。

    お弁当を三割引で売るんじゃなかったという後悔もちらっと頭をかすめたが、
    嵐の中を出勤して来た人達へのごほうびと思えば良い。

    売り上げは少なくても、たくさんの商品を捨てずに済んだことが何よりありがたい。
     神様ありがとうございますと、心の中でつぶやきながら家路についた。

        
    作 荒木紀代子 画 やまだしんご

    〔庶民が創る ふだん着の 《《投稿専門誌》》 アルファ企画 Vol.34 より転載〕





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    Vol.30 接客研修会

    2010.07.27 Tuesday

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      Vol.29 金魚すくい

      2010.07.20 Tuesday

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        Vol.28 先生もお勉強

        2010.07.13 Tuesday

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          Vol.28 先生もお勉強


           学校の先生というのは、子供に勉強を教えるのが仕事だと思っていたら、
          自分達も結構勉強をせねばならぬものであるらしい。
           
           私達のスーパーへ、町の中学校から若い男の先生が現場体験のためにやって来た。
          24、5歳くらいの長身でがっちりとした、なかなかハンサムな青年である。

          スーパーで働くのが子供の教育にどう役立つのだろうと思うが、
          多様な個性に対応するためには、
          先生の方もいろいろな体験をして見聞を広めることが大切なのかも知れない。
          今どきの先生は本当にご苦労様である。
                 ◇  ◇  ◇
           お仕着せのエプロンを着て胸に実習生の名札を付け、
          たちまちスーパーのスタッフに早変わりした先生に、
          店長がアルバイト心得を指導する。

          ? あいさつは明るくはっきりと
          ? 感じのよい正しい言葉使い
          ? 商品は丁寧に取り扱う
          ? 子供やお年寄りにやさしく
          ? 5分前には仕事にかかれるように出勤
          ? きちんとした身だしなみ
           スーパーで働く人間の基本中の基本である。
           
           先生は(そんなの当たり前だ。そのくらいわかってら)という顔で聞いている。
          だが、そんな当たり前のことでも、常にそれを意識し、
          ずーっとやり続けるのはなかなか難しいことなのである。

           全体朝礼で皆に紹介された後、先生はさっそくお菓子売り場で仕事を始めた。
          メーカーさんが倉庫にドサドサと積み上げていった商品をダンボールから出して
          陳列棚に並べるのである。

          自分の生徒くらいの可愛いアルバイトの女の子に、
          「おせんべい類はこちら。ここはクッキーよ。お客さんに商品名がよく見えるよ
          うに置いてくださいね。
          あっ、違うでしょ、それはキャンデーなんだからクッキー売り場に置いたら駄目
          ですよ」などと叱られながら先生は一生懸命である。
          ビールや酒ならこれは辛口、あれは甘口、キレがいいの悪いのと知識も豊富なのだ
          ろうが、お菓子のことはとんとわからないようだ。
          「どこが違うんだよ。おんなじようなもんじゃないか」と反論してみたが
          「ダメッ!全然違う!キャンディはあっち」
          と叱られてしまった。アルバイトだろうと自分の生徒みたいな若い子だろうと、
          先輩なのである。

           汗をかきながらいろんなお菓子を並べ終えると開店の時間になった。
          次々と入ってくるお客さんに、先生は
          「いらっしゃいませ」「お早うございます」と愛想よく挨拶をしている。
          なかなか感じがよい。そんな先生のところへ一人のお客さんが近寄って来た。
          「タカの爪はどこね」
          「えっ、タカの爪? なんですか、それ」
          タカの爪たい。知らんとね」
           向こうの方で様子を見ていたマネージャーがとんで来た。
          「唐辛子のことタイ、先生。はい、お客さんこちらへどうぞ」
           やらやれ、商品知識の勉強もしなくては。
                 ◇  ◇  ◇
           お昼は惣菜部で天丼を買った。休憩室で天丼を食べながら、
          先生は何だか元気がない。

          9時から10時までの一時間、陳列棚にお菓子を並べた。
          それから30分程店内を回って、何がどこで売られているかをだいたい把握した。
          その後お昼まで、レジのチーフに厳しく監督されながらレジを打った。
          それだけでぐったり疲れている。

           レジ打ちなど見ている分には簡単この上もない作業なので、
          軽い、軽いと思いがちだが、やってみるとこれが案外難しい。
          レジのスキャナーがうまくバーコードをとらえてくれないのである。
          モタモタと何回もやっているとお客さんはイライラするし、チーフからは睨まれるし、
          先生はもう、冷や汗のかき通しだったのだ。
          (あ〜あ、スーパーの仕事なんてたいしたことはないと思ったけど、
          やってみると大変だ。疲れたなあ)と、丸くなった背中が語っている。

           でも、天丼はおいしかったらしく、ぺろりとたいらげると先生は少し元気になった。
           わざわざ惣菜部へ行って
          「天丼おいしかったです。ごちそうさま」とおばさんたちに挨拶をした。
          学校の先生とは律儀なものだ。
                 ◇  ◇  ◇
          二、三日たつと、だいたいのことはのみ込んでしまってオタオタすることもなくなり、
          先生は二年も前からこの店で働いているような顔をして、
          長い足でさっそうと店内を歩き回っている。

          若いから覚えも早くて、一度やってみれば何でもすぐに覚えてしまうのだ。
          私のように同じことを五度も六度もやってみなくては覚えられないおばさんには
          羨ましい限りである。

           開店まもなく青果売り場を歩いていた私は、四、五人のわんぱくそうな中学生
          が寄り集まってヒソヒソと囁き合っているのに出くわした。
          「やってる、やってる」
          「エプロン、似合うやんか」
          「手付きが危なかねぇ、メロンば落としそうばい」
           彼らの視線の先では先生がせっせとメロンを並べている。

          「これは、えーと、マスクメロン。これはアルスメロン。これは、ナニナニ? 
          クインシーメロンか。メロンもいろいろあるなあ。みんなよく似とるけん、
          どれがどれやらわからんなあ」と、ぶつぶつ言いながら。
           見守っている生徒達が黙っていられなくなって
          「先生、がんばれ!」と声をかけた。
          「おっ、お前達、手伝いに来たとか」
          「いーえ、監督に来たと。先生、メロン落とすなよ。高いんやけんね」
          「おう、まかせとけ。ばってん、もし落として割ったら先生が買うてお前達に食わすっぞ」
          「えっ、ほんと! やった! 先生落として、落として」
          「あっはっはっはっ」

          先生も生徒もお客さんも従業員もみんな笑った。
          明るい笑い声がいつまでも店内に谺していた。
          作 荒木紀代子 画 やまだしんご
          〔庶民が創る ふだん着の 《《投稿専門誌》》 アルファ企画 Vol.44 より転載〕


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          Vol.27 店長、浮き足立つ

          2010.07.06 Tuesday

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            Vol.27 店長、浮き足立つ


            ドドンコドンドン、ドドンコドンドン。
            夏が来た。
            ドドンコドンドンの祭り囃子に乗って「ぎおんさん」がやってくる。
            私達の町の最大のお祭りだ。

            巨大な龍を模した山車の「大蛇山」が、鉦太鼓のにぎやかなお囃子と共に
            町内を巡行し、家々の玄関口で盛大に火を吹いて、その家の一年間の厄を祓う。
            真夏の暑さを吹き飛ばす豪快なお祭りである。

            夏祭りは男の祭りだ。子供たちが練習する囃子の音が風に乗って聞こえて来るこ
            ろになると、町の男達は皆浮足だってしまうのだが、中でも特に、
            頭に血が登って仕事が手につかなくなるのは誰あろう、
            われらが店長である。
            ◇  ◇  ◇
            「ね、聞いた? 店長が一泊で大阪出張げなよ」
            「へー、珍らっさ。なんごとね」
            「ギフトの展示会げなたい。ばってん、おかしかよね。今までいっぺんでん、
            一泊で展示会に行きなはったこと、なかろうが」
            「ほんなこつ、どうした風の吹き回しじゃろか」

             そうなのだ。皆が驚くとおり、店長はめったに泊りがけで出かけるという
            ことをしない。
             ギフトの展示会など、
            「この忙しいのに大阪までも行かるっか。福岡で充分た」と言い、これまでいつも、
            福岡までしか出張しなかった。今年に限ってどうしたことかと、
            店長を知る者なら誰でも思う。

             皆の不審顔をよそに、当日は、何だか自然に頬がゆるんで来るのを無理にこら
            えているような顔付きで出かけて行った。
            「何かおかしかね。えらい嬉しそうじゃん」
            「お中元の仕入ればするとが嬉しかとじゃろか」
             皆、何となくふに落ちない。

             翌日の夕方帰って来た店長は、
            「ハイ、おみやげ」と、事務所にも売り場にも生八ツ橋の箱を配って回った。
            「あら、店長、大阪出張なのになんで京都のお土産?」
             一瞬ギクッとした表情を見せたが
            「お、大阪空港で売りよるよ。い、今時、そんなもん、どこででも買えるたい。
            ところで田上さん、私の名刺は注文しといてくれた?」と、あわてて話題を変えた。
            ◇  ◇  ◇
             謎は、店長がデジカメで撮って来た写真をコンピューターに取り込んでいる時
            に解けた。
            展示会の写真も2〜3枚はあったが、写真の殆どは京都八坂神社を撮影したものだ
            ったのである。

             八坂神社は「ぎおんさん」の名で親しまれる厄除けと商売繁盛の社である。
            この神社の祇園祭はここに書くまでもなく、京都の三大祭のひとつとして日本全
            国知らぬものはない程の有名な祭りだ。

             私達の町のぎおんさんの元締めの八剣神社は八坂神社の主神、
            スサノオノミコトの分霊を祀る神社であり、大蛇山の巡行も八剣神社を基点と
            するのだから祭りキチガイの店長にとって八坂神社は大本山みたいなものだ。

             ギフトの展示会が大阪で開かれると聞いたとたんに、(しめた。この機会に
            八坂神社の今の様子を見て来よう)という考えが店長の脳裏にパッとひらめい
            たであろうことは、容易に想像できる。道理で、いそいそと出かけたはずだ。

             そしてまた、皆をだまして出かけただけの収穫もあった。
            さすが、名にしおう八坂神社だけのことはあって、お茶屋や料亭などの奉納
            提灯がびっしりと並ぶ舞殿の華やかさ、境内にずらりと並んだ露天商の出店の
            面白さ、巫女さん達が売るお札やお守りや根付、その他さまざまな祇園さんグ
            ッズなど、自分たちの祭りに取り入れたいもの、参考にしたいものが山程あり、
            もう、夢中になって持参のカメラで撮りまくり、ぎおんさんの資料がぎっしりと
            つまったデジカメを、宝物のように大切にかかえて帰ってきたのである。
                      ◇  ◇  ◇
             「店長はおるな。ちょっと頼みのあるとばってん」
            と、お客さんがやってきた。
            「すみません。外出してます」
            「あら、そうな。明日はどうじゃろか」
            「すみませんねえ。明日もいないんですよ」
            「あらら、そら困った。何ごつな」
            「お客さん、聞いて下さいよ。店長ときたら、ぎおんさんぎおんさん、
            大蛇山大蛇山ちゅうて毎日毎日出かけてばかり。仕事は全然せんとですよ。
            もう、大蛇山と心中しゅうてしよるとですけん」
            「どんこんでけんな。もう給料ばやんなすな」
            「ほんなこつ。給料ばやらんごつ、経理にゆうときます」

             困ったものである。早くぎおんさんが終わってくれないことには商売はあがったりだ。
            ドドンコドンドン、ドドンコドンドン。
            風に乗って流れて来る祭囃子が恨めしい今日このごろの、私達従業員一同なのである。

            作 荒木紀代子 画 やまだしんご

            〔庶民が創る ふだん着の 《《投稿専門誌》》 アルファ企画 Vol.33 より転載〕


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